DACでは2020年3月より、運用型広告、デジタルマーケティングに関するオンライン研修サービスの提供を開始しました。
本記事では、マーケティングに関わる事業者の人事担当、デジタル関連部署の管理職のみなさまへ、リモートワークが当たり前になりつつある環境での新人教育において大切にすべきポイントと、DACが考えるデジタルマーケティング教育について紹介します。
5年間で延べ1,000名を超える中途社員や新入社員の教育に関わってきた、DACのオンライン研修開発担当者が語る人材育成についての秘訣を、今回特別にお届けします。
※4月より、完全オンラインの新卒研修を行っています。
リモートワークが問い直す、デジタルマーケティング教育の間違い
急速なデジタル化にともない、業界各社において運用型広告への対応が急がれる中、人材獲得や育成に頭を悩ませる企業も多いのではないでしょうか。また新型コロナウイルスによる社会情勢の急変により、リモートワークによるオンライン教育の一般化が進む中、教育担当者として思考錯誤を繰り返している方も少なくないでしょう。
そのような状況で近年、急速に需要が高まったオンライン研修によるデジタルマーケティング教育において、よくある「間違い」と、それを払拭して正しい方向に導くために必要な「教育の仕組み作り」について紹介します。
間違い1:「教育チームを設置したから、任せておけば大丈夫」
オンライン研修の以前に、教育において最も根深いのが、この手の間違いです。一定以上の規模を持つ企業では、デジタル関連の教育はデジタル専門の教育チームが設置されていることも多いかと思います。しかしながら、教育チームを新設したことにより、過大な安心感が生まれ、新人教育を教育チームに任せきりにしてしまうことでOJTやメンターといった現場のサポートが行き届かず、新人が戦力化されていない状況が多く見受けられます。新人教育は各組織によって連携される一連のサポートプロセスである、ということを意識せず、教育に対して短期的なリターンを求める傾向にある組織が陥りやすいパターンです。
間違い2:「とにかく実務を最優先で習得させよう」
デジタルの中でも運用型広告やマーケティングテクノロジー等の複雑なオペレーションが求められる領域ほど、「とにかく実務ができるように!」という企業のニーズを多く耳にします。新人教育を「技能訓練」のようなものととらえ、まずはオペレーションをたたき込もうとする組織が目立ちます。これも新人教育に対する間違いです。実務技能のほとんどは、現場で自ら試行錯誤することでしか身につきませんし、加えて業務の全体感をつかめないままオペレーションだけを習得しても高い価値を発揮できる人材にはなりません。新人教育における役割は、「技能訓練」ではなく「道しるべ」であり、目指すべき山頂と道順を示すことが最優先事項なのです。
例えば運用型広告を習得する場合、運用のオペレーション方法だけではなく顧客までを視野に入れたマーケティング業務の全景、技術や生活者の変化にともなう業界の歴史や変遷、そしてこれから立ち向かうべき本質的な課題について、新人としっかり認識を合わせていくことが重要です。この認識合わせをすることで初めてオペレーションに関する研修が活きてくると言っても過言ではありません。
特にリモートワークの状況下では、作業や実務をリモート環境でどのように教えるべきかに意識が向いてしまいますが、それよりも他者との関わりが弱くなるにつれて仕事の全景が見えづらくなる中で、これまで以上に仕事の全体感や意義・目的、そして目指すべき方向についてしっかり共有することがより重要であると言えます。
間違い3:「研修はオンラインで『動画化』すべき」
講義やセミナー等、あらゆる知的インプットの場において、テキストよりも動画のほうが効果的だとする考え方が間違いです。動画はテキストや図表よりも感情・感覚的な情報を追加できるため、ニュアンスやイメージを伝えやすいというメリットがあります。一方で、受け取り手によって解釈や認識の違いが生まれやすく、感覚的な思い込みが発生するデメリットもあります。
前述の通り、新人教育においては、新しい領域についての正しい定義や認識のすり合わせが必要となるため、必ずしも動画化が正解とは言えません。また、例えば他部署から異動してきた人に対しての研修では、1時間の動画を視聴することが、逆に非効率となることもあります。
まずはテキストや図表による「言語情報」から正しい認識を得たうえで、わかりにくいところの感覚やニュアンスを動画で伝える、といった相互補完した利用が必要です。そして何よりもインプットしたあとに知識を定着させるためのディスカッションやフォローアップが大切です。「動画撮影して、見てもらえれば研修になる」といった間違った方針をとらないよう注意しましょう。
ここまで、デジタルマーケティング研修における「間違い」について、を説明しました。次は「正しい仕組みづくり」について、を説明します。
デジタルマーケティングにおける、教育の正しい仕組み作り
リモートワークの環境下でも正しいデジタルマーケティング教育を進めるためには、組織的な「仕組み作り」が肝要になります。その「仕組み作り」のポイントとして、特に押さえておくべき大切なポイントを3つ紹介します。
仕組み作り その1:知識、理解、体験を通して実務への入り口を作る
まずは研修方法についてです。先述の通り、新人教育は「技能訓練」ではなく、「道しるべ」です。しかし、道を示すだけではさすがに実務への適応に難航するため、知識インプットと理解度チェック、さらに体験によって実務への正しい入り口を作ることが大切です。その中でも重要になるのが、講義・ディスカッション・ワークのバランスであり、情報を認知して理解し、体験するというプロセスを、一つ一つの講義に取り入れながら、新人教育全体の流れを設計することが重要です。
例えば、DACが提供する研修プログラムでは、知識インプットのための講義と、理解を深めるチームディスカッション、定着させるアウトプットワークの3つを備えています。知識インプットのための講義は、できるだけオンライン化することで講師の拘束時間を減らしつつ、その後のチームディスカッションによって疑問点を共有して解決することで、より多角的な視点や意見を養うことが可能です。また、研修の後半からは、アウトプット中心の実務に近いプログラムを多くとり入れています。これらのディスカッションやワークは、オンライン環境下でも実施可能なため、移動時間を気にすることなく取り組めることで会話の頻度が上がり、高い効果が得られます。
※オンライン研修導入前後での研修設計の違い
仕組み作り その2:教育チームと所属組織の関係を作る
続いて、組織間の連携についてです。教育の初期段階では、入社直後は人事が研修し、その後デジタル専門部署がデジタルの基礎を叩きこみ、それから現場に渡してOJTへ、というような「リレー型教育」を採用しているところが多くあります。しかし、この「リレー型教育」では組織の分断を生むことが多くなり、研修期間が長期化することで、新人自身も業務を自分事化しづらく、研修の効果が薄いというデメリットがあります。
このような課題に対応するのが、「サイクル型教育」です。「サイクル型教育」を実施することで、関係者がそれぞれの役割を持って新人と関与し、同時多発的なインプットやアドバイスを得られるような関係作りを目指すことができます。
これにより、新人は実務をより早く実感することができ、研修への理解も深まります。また、現場のトレーナーも初期段階の教育から関わることで新人の成長を自分事化することができるため、新人教育に対する良いモチベーションが生まれます。さらに些細な質問や疑問は現場で解決されるため、教育チームに過度なコミュニケーション負荷がかからない、などのメリットもあります。
この「サイクル型教育」では、オンライン教育システムに蓄積された受講データが、個人の理解度チェックや進捗管理のツールとなり、教育チームと関係者間の連携を深めるための重要な役割を果たしています。オンライン教育の導入は、コンテンツや講義をオンライン化することよりも、データによって教育に関わる組織間の連携を深めることにこそ、意味があると言えます。
※リレー型教育とサイクル型教育のイメージ
仕組み作り その3:中長期的プロセスを重視し、教育コミュニティを創る
最後に、最も重要なのが、研修を一過性のイベントにしないための仕組み作りです。
教育を中長期的なプロセスと捉え、関係者間の対話によって「教育コミュニティ」の場が形成されるよう、意図的に働きかけることが大切です。専門の教育チームに閉じずに、各部署の上司やトレーナーが教育に関して議論する場や、新人と気軽にコミュニケーションをとる場を設置することで、中長期的な教育文化が育まれ、その結果、教育水準を高めていくことになります。
昨今では、Teamsやslack等のチャットツールが各社に普及しており、オンラインでもコミュニティ作りが容易なことから、教育に取り入れている企業も多いのではないでしょうか。リモートワークが中心となった企業において「雑談」の重要性が再評価されてきていますが、教育においてもこの「雑談」は非常に重要です。気軽に話せて様々な人の意見やアドバイスを求められる場所を、どのようにオンライン上に創るのか、この機会に考えていく必要があるでしょう。
※チャットツールによる実際のやり取りの様子
私たちがオンライン研修開発で大切にしていること
弊社では今年度から、キラメックス社のTechAcademyを活用したオンライン研修を広告会社や媒体社へ提供開始しました。
これまで紹介してきた、教育の正しい仕組み作りのために、テキストを補完する動画機能やテスト機能も新しく開発しました。受講進捗は人事・教育組織・トレーナー等の関係者にリアルタイムで共有できるため、「サイクル型教育」のための連携も可能です。また、プログラム内容についても、足元の運用型広告のテクニック論に終始することがないように、デジタルマーケティングの全体像から、ネット広告の基本や変遷、これからの業界課題まで、できる限り俯瞰した内容によってデジタルマーケティングの正しい「道しるべ」となるよう心掛けています。
コミュニティについても、利用企業の社内組織と連携しながら、講師と受講生が一緒に入るグループチャットを用いて、質疑やディスカッションが気軽に行えるようにしました。新型コロナウイルスの影響で完全オンラインとなった弊社の新人研修(約100名)でも活用しており、今回設計したテキスト・動画・理解度テスト・コミュニティの組み合わせによって、通常講義を聞くよりも正しい認識・理解を得られています。社員アンケートの感想も予想以上に好意的で、社内チャットで寄せられる質問も一歩二歩踏み込んだレベルの高い内容が多く寄せられています。
最後に、今回開発したオンライン研修について、最初の講義(テキストと動画)を無料でお試しいただける「体験版」を用意しました。
ご興味のある方は、お気軽にお問い合わせください。また、教育や研修に関する些細なご質問も、研修開発責任者より返答いたします。
新型コロナの影響で、広告・メディア業界においても、これまで通りの業務や教育が困難な日々が続いていることかと存じます。オンライン研修を通して、少しでも皆様のデジタルマーケティング教育のお役に立てますと幸いです。
※オンライン研修開発を担当する谷垣(左)と星野(右)