偶然の出会いが生んだメディア/『T JAPAN』発行人 茗荷 伸壽様、内田 秀美編集長インタビュー

 2016.12.02  アドテクノロジーブログ

今回から11月に開催を致しました、2016年秋DAC媒体説明会特集をお届けします。

第1弾は『T JAPAN』。2016年10月、ニューヨーク・タイムズ、朝日新聞社、集英社にDACが加わり4社が生み出す新たなWEBメディア『T JAPAN web』が公開となりました。今回は『T JAPAN』誕生秘話と今後の展望を、発行人である朝日新聞社の茗荷 伸壽様、集英社の内田 秀美編集長にお話を伺いました。

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左:内田 秀美編集長、右:発行人茗荷 伸壽様

偶然の出会いから『T JAPAN』発刊へ

本日はお時間をいただきありがとうございます。まずは改めて『T JAPAN』についてご紹介をお願いできますでしょうか。

茗荷:米ニューヨーク・タイムズが発行する『T Magazine(The New York Times Style Magazine)』は2004年に創刊されたフリーマガジンで、年12~13回New York Times紙日曜版に折り込まれて配布されています。『T JAPAN』はこの日本版になります。翻訳記事とオリジナル記事を半々で展開していまして、2016年は5回各20万部発行しています。20万部のうち18万部を知的富裕層の方が多いエリアにお住まいの朝日新聞読者へ、あと残り2万部は集英社さんのファッション通販サイト「FLAG SHOP」の最優良顧客へ配布しています。女性誌において20万部というのは皆無で、朝日新聞社としてもこうしてセグメントされたターゲットに届けるマガジンというのは初めてでしたので、チャレンジングな取り組みでした。

『T JAPAN』発刊に至った背景をお伺いできますでしょうか。

内田:私は『SPUR(シュプール)』という雑誌を創刊から25年間担当していまして、編集長も6年ほど担当していました。NYやパリなど、さまざまなコレクションに数え切れないほど行っていたのですが、NYに行くといつも楽しみなことがあって、それはコレクション会場で無料配布されている『T Magazine』という雑誌を読むことだったんです。日本に帰ってきてからも、『T Magazine』にこういうページがあるんだけれど、マネしたら?」なんて編集部で言ったりすることもあるくらい、すばらしい雑誌だなと思っていたんです。

そして2013年にたまたま朝日新聞の茗荷さんとお会いしまして、そこでいろいろと「最近ファッション業界はこんな感じです」とか「そういえば新聞にタブロイドをいれるような企画もありますね」とかっていう世間話をしていたら、茗荷さんが「朝日新聞社っていうのは、ニューヨーク・タイムズと100年以上記事の提携をしているんですよ」とおっしゃって。「ん、ニューヨーク・タイムズ?」と思って、「茗荷さん、この雑誌知ってます?」とNYから持って帰ってきていた『T Magazine』を見せました。「私この本が大好きなんです。」と言ったんです。こういう雑誌が日本で出せるといいなと思っていて。」と。そしたら茗荷さんが、「じゃ聞いてみます?ダメかもしれないですけれど」とおっしゃったんです。でもその時は「100%無理。無いでしょ」と思っていました。そしたら、数ヵ月後、急に茗荷さんから連絡があって「まんざら嫌じゃないみたいだよ」と。そこから急ぎ企画書の準備を始めました。

茗荷:少し補足すると、偶然なんだけれど内田さんから「ニューヨーク・タイムズで発行している『T Magazine』という雑誌なんですよ」と言われたちょうど1週間くらい前に、うち(朝日新聞社)の前社長がニューヨーク・タイムズに訪問していて、今後ニューヨーク・タイムズのコンテンツを使った事業をやろうじゃないか、というような事を帰朝報告で言っていました。それが頭に残っていて、(『T Magazine』の話を聞いて)「これいいなー」と思って、戻ってすぐ社長のところにいって、「ちょっとこういうの、やりたいんですけれど」と言ったら「いいね、それ」となったんですよ。

内田:そうだったのね、笑。

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茗荷:本当にすごいタイミングでした。あとから話を聞くとニューヨーク・タイムズから様々な提案を貰っていたけど、ことごとく「出来ない」という返事をしていたようです。そこに私が提案をしたので、社長にとっては渡りに船だったみたいなんですね。

「じゃあちょっとこれ進めてみよう」ということで、すぐに国際本部長のところに行って話をし始めました。最初は国際本部長からニューヨーク・タイムズに「この『T Magazine』の日本版の可能性ってある?」っていったら、向こうは「いいんじゃない、それ。ちょっと検討しようか。」となりました。で最初に、向こうから質問状みたいなのが来ました。それで、内田さんとどうしようかという練り込みが始まりました。座組みはどうするか、どういったビジネスモデルでやるか、内容はどうするかというのを2社で考えて、それで提出しました。

それが2013年12月で、2014年春頃には内田さんと毎週のように打ち合わせをして、企画書にして、うちがやりたいことをまとめていきました。その後色々と契約面での交渉が難航したんだけれど、最終的にニューヨーク・タイムズ側が英断をしてくれて、無事発刊に至りました。

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“Intelligence&Quality”をテーマに、「発見」のある情報を届ける

内田:雑誌はそれぞれの目的、その本が持つ目的によって作り方というのは変わるんですけれども、この『T JAPAN』に関しては、朝日新聞の購読者、しかもちょっと意識の高い方々に配れるということがすごくよかったな、と思っていて。新聞を購読している人たちって“きちんとした文章“を読みたいと、たぶん思っているんですよ。そうじゃなかったら、(手軽さを考えたら)全部スマホでいいじゃないですか。あと(スマホと)新聞との違いは何かというと、全体を見たときに一度にすべての見出しが目に入ってくること。「私はココは関心があるけれどココは関心がない。でもふっと見てみたら意外に面白い。」という発見だと思うんですよ、紙って。雑誌もそうなんですけれど。

雑誌も、『SPUR』をやっているときからずっと思っていたんだけれど、例えばファッションをすごく好きで、『SPUR』をずっと買ってくださっている方が、雑誌の後ろのほうを見たら、何か分からないけれどちょっと引っかかる詩があって、「明日ちょっと書店にいって、この人の詩の本を買ってみよう」という行動をされていたり。これって、新しい発見なんですよね。だから、自分から欲しい情報を取ってくるのではなく、何かを ”発見をしたい“というのは、新聞や雑誌を読んでいる人たちの特徴だと思っていて。それと同じようなことを『T JAPAN』でもやりたいな、と思っていました。

なので、いろいろなバリエーションの記事を1冊の中に詰め込みたいなと思っていたし、それをいわゆる「Intelligence&Quality」というキーワードを作ってみたんですけれど、やっぱり“Intelligence”っていうのは、朝日新聞を読まれている方はそういうところがあると思ったのでその辺に刺さるものを。そして”Quality”というのは、何かの話題や物を10個出すんじゃなくて選びに選んだ1つを美しく見せる、というところを重視しよう、という気持ちで掲げました。

ニューヨーク・タイムズ社の『T Magazine』のコンセプトと『T JAPAN』のそれは同じですか?

内田:はい、同じです。NYの『T Magazine』の編集長と話したときに「ファッションという言葉をあまり使いたくない。『T Magazine』っていうのは、スタイルマガジン。それぞれの人たちがいろいろな“スタイル”を持っていて、洋服というものも”スタイル“の1つだし、インテリアというのも”スタイル“の1つですし、”“スタイル“という言葉ですべてを表現したい」と言われ、共感しました。

茗荷:あと新しく日本で雑誌を出す場合、初物の雑誌って広告はとりにくいんですよね。特にこの時代は。

内田:かなり難しいですよね。

茗荷:ところが、『T JAPAN』は『T Magazine』の日本版ということで、特にラグジュアリー企業のトップなんかは、みんな“T”のことを知っているので推しやすかった、と集英社の営業の方がおっしゃってましたね。

内田:そうなんですよ。これまで広告を掲載をしたことのない日本の雑誌の場合は、日本側がかなり詳しく本国に説明しなくちゃいけないのに、“T”に関してはたとえばあるブランドの人は、「向こうにメールを打ったら2日後に『OK!』っていう返事が返ってきたわよ」って言っていて。

茗荷:普通はそういったことはないですよね。

内田:ないですね。『SPUR』も今のようにおかげさまで広告が多く入るようになるまでには10年以上かかりました。出稿をしてもらうためには「こういう雑誌で、とても日本で人気があって」というのを説明して、日本に何度も向こうの人がやってきて、「『SPUR』すごいね」みたいになってそれでやっと広告が入る、という形だったんですね。

茗荷:『T magazine』はひとつの大きなブランドなわけですね。

広告主や読者のリアクションはいかがですか。

内田:読者からのリアクションはすごくて。さきほども話しましたが、新聞を読んでいる方って文章が上手なんだな、と思ったことがあります。読者からのアンケートの中に「ご自由に『T JAPAN』について、思うことをお書きください」というところがあるんですが、そのコメントがすごく充実しているんですよ。

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内田:例えば新人の原稿を見ても「何を言ってるんだか分からないな、笑」というのがたくさんあるのに、『T JAPAN』の読者の文章は起承転結がしっかりしていたりとか、もうライターさんにスカウトしたいくらいの名文を書いてくださる方もいて。いろいろな年齢の方がいるんですが、すごくきちんとした感想文を送ってくださることに、とにかく驚きました。だから、「Intelligence&Quality」をテーマに掲げたのは間違いじゃなかったとたくさんのコメントを見て思います。

茗荷:それは朝日新聞の読者だからかな。

内田:そうだと思う。朝日新聞を定期購読して読まれている方は、意識の高い方たちなんだろうなと思います。もちろん発刊当初からクライアントには好評で、「こういったものはなかった。待っていた」ということは、すごく言われました。お金持ちターゲットという媒体はいくつかありますが『T JAPAN』は方向性が違います。富裕層という言葉はあまり好きではないのですが、知的好奇心を持った富裕層の方々をターゲットにしておりましてその層にちゃんと刺さる記事をラインアップしています。クライアント方たちにも、「他とは違うバリューがある」と思っていただいています。

茗荷:配布先としては朝日新聞読者、集英社のFLAG SHOP顧客の他、会員制クラブ、全国の最高級ホテルの客室とかラウンジとかプレイスメントを色々なところにしているのも特徴です。またラグジュアリーブランドのお店にも置いて頂いていたりもしています。

内田:そうですね。例えばこの本(vol.6)のこれ(表紙を指して)はGUCCIとバレンシアガのデザイナーのインタビューなんですが、これは増刷をしてGUCCIの方にお渡ししています。他にもいろいろなブランドの大きな特集をやった際に、顧客様に配っていただけるように、100冊ほどブランドにお渡しをしていて。そういうやり方も効いていて、芦田淳先生の特集をした際には、ファッションショーの際にお客様に配布してくださったということもありました。

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これまで発刊された『T JAPAN』本誌。一番上が、GUCCIとバレンシアガの特集を行ったvol.6(2016年6月刊行)
 

客観的なジャーナリズムとしてブランドのストーリーみたいなものをとりあげることの価値は大きいんですね。

内田:そうですね。『T magazine』はニューヨーク・タイムズ社というジャーナリズムの王道の人たちが作っている、というのもあるんですけれど。客観性をすごく必要とされている。最初に本国のディレクターとやりとりをした際にはすごくそのことを言われました。レストランに関する記事で「あのレストランはおいしいよ、だから皆さんいきましょう」というのが今までの女性誌の作り方なんですけれども、一歩踏み込んで客観的にフィーチャーするのは“そこのシェフの人はすごく食材にこだわっていて、自分で畑も持っていて”といったように切り口で“T”はとりあげます。それって、なかなか出来そうで出来ないんですよね、毎月出していると。

茗荷:内田さんは“記事にストーリーがある”とか言っているじゃない。

内田:そうですね。そのテーマの“切り口”というのをすごく大事にしていて、それは今も編集部のスタッフにも「他でも通用するような切り口、というのはなるべくやめてください」と言っているんです。

本誌だけでは届け切れない情報をwebで発信

雑誌に続き、2016年10月28日に『T JAPAN Web』がオープンとなりましたね。

内田:『T Magazine』にもウェブサイトがあるのですが、このウェブサイトはデザイン的にもすごくスッキリしていて、すごくいいなと思っていました。彼らは、ニューヨーク・タイムズ社自体がそうなんですが、紙とウェブサイトでどっちが先か後か全くこだわっていなくて、むしろ本が出る前にウェブサイトに記事が公開されていたりとかしているんですよ。いち早くウェブで情報が読めるのですごく勉強になっていて、だからいつかやりたいなとはもちろん思っていました。

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『T JAPAN web』と『T JAPAN』本誌vol.7

内田:それと『T Magazine』にはすごくいい記事があるんですが、全部紙で紹介しきれないんですよね、むこうが年間で12~13冊で日本は5冊だから。だからその間を埋めたいという気持ちはすごくあって、いい記事なのでみなさんに読んでいただきたいという純粋な気持ちがありました。そして契約関連や色々なところが整ったので、このたびローンチすることが出来ました。

茗荷:2014年9月1日に創刊発表会をして、2015年3月25日に本誌を創刊したので、創刊から1年半でウェブサイトのリリース、ということになりますね。

今回WebサイトのローンチにおいてはDAC含め、3社での取り組みとなっていますね。

茗荷:ちょうど1冊目が出た直後くらいに、DACさんの矢嶋社長(当時)とお話をする機会がありました。矢嶋さんも内田さんと同じく『T Magazine』のファンだったようでして。出張などで行かれるたびに熱心に読まれていたようです。それで色々と創刊時の取り組みや今後の展望などを話していたところ、DACさんからウェブサイトのローンチについてのオファーを頂いたような形ですね。

それこそ矢嶋さんとは初めてお会いした当時僕は、朝日ドットコムの立ち上げに関わっていたんですね。ちょうどそのころ、DACも立ち上がったんですけれど、その時最初に、デジタルの企画をDACと僕がやったところからのお付き合いですね。なので、今回のお話をきっかけにまた20年越しに新しい取り組みを始められたことを、大変うれしく思っています。

今後の展開を教えて下さい。

茗荷:『T JAPAN web』としては始まったばかりですので、まずはたくさんの方にご覧いただければと思っています。また本誌でいうと、来年2017年からはエリアを拡大して、大阪といっても芦屋地区(兵庫県)ですね、あと名古屋市の高所得者層が住んでいると思われる八事(昭和区)だとか、覚王山(千種区)とか、東山沿線をいくつかピックアップして新たに配布予定です。ということで引き続きパワーアップをしていければと思いますので、ぜひご期待ください。

茗荷様、内田編集長ありがとうございました。

 

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