Googleは現地時間7月22日、Chromeブラウザの3rd Party Cookieの制限に関する方針を変更し、従前の廃止路線から「ユーザーに新しい選択肢」を提供する方向性へ転進を図ることを発表しました。3rd Party Cookieに代わる新たなエコシステムとしてGoogleが開発・検証を進めてきたプライバシーサンドボックスAPIの展開について、英国の規制当局(CMA等)による審査の状況や業界各社から寄せられたフィードバックなどが起因して、今回の判断に至ったようです。いずれにせよ、Googleが2019年から打ち出していたCookie規制に関する方針を覆した大きな転換と言えるでしょう。
今回の変更が、デジタルマーケティングやデータビジネスに関わる業界各社にどのように影響するのか。当社Hakuhodo DY ONEのデータソリューションに対するスタンスと合わせて見解を述べさせていただきたいと思います。
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Googleが発信した内容をおさらい
まずは、Googleが7月22日時点において発信した内容のポイントを整理してみましょう。
- プライバシーサンドボックスAPIについて、初期テストを通じて一定の成果を達成できる可能性が示せた。
- 反面、その移行には多くの関係者による多大な作業が必要であり、広告業界全体に影響を与えることも認識している。
- 様々な状況を踏まえ、3rd Party Cookieの廃止に代わり、ユーザー側で選択がきる新しい機能をChromeに搭載するアプローチを検討中。
- プライバシーサンドボックスAPIについても引き続き投資する。
- 新たなプライバシーコントロール機能も追加し、Chrome のシークレットモードに IP 保護機能を導入することも予定している。
3rd Party Cookieの廃止を完全に諦めたとまでは現時点で断定できませんが、Chromeでは当面の間「ユーザーによる選択」を前提に3rd Party Cookieを利用し続けることができるということです。一方で、新たに実装される機能次第では、ユーザー判断により3rd Party Cookieが大きく減少する可能性も残っています。
Cookie規制の動向に関するおさらい
今回のGoogleの発表を踏まえると、Cookieに関する規制全容は以下となります。(国内において特に利用者の多い利用環境を中心に整理しています。)
忘れてはいけないことは、既にiPhoneやMacOSについては、SafariはもちろんChromeを含むすべてのブラウザ・WebView(ウェブビュー)において3rd Party Cookieを自動的に排除しているということです。また上記で言及をしていないブラウザ(Firefox等)についても、3rd Party Cookieを制限する仕組みが既に実装されている状況です。従って今回のGoogleの3rd Party Cookie廃止方針の変更はあくまで部分的な影響にすぎず、変わらず多くのブラウザにおいて、3rd Party Cookieの制限によりターゲティング広告や効果測定の機能を制限されている状態です。
企業は今回のGoogleの方針変更にどのように向き合うべきか
「Cookieの消失という差し迫った問題は棚上げされたので、ひとまずクッキーレス対策も先延ばししてよいのではないか」早速こういったお声も頂きます。しかし当社としては、継続してクッキーレス対策の検討・検証を推進して頂くべきであると考えています。
理由の1点目は、上述の通りAppleのiOSをはじめとしたさまざまな環境・ブラウザにおいて既に3rd Party Cookieが廃止・制限をされている状況があることです。企業各社様のサービス・メディアのコミュニケーション対象は一部のChrome利用ユーザーだけではないはずです。網羅的にユーザーを理解し、繋がり、エンゲージメントを図っていくための取り組みは継続をしていくべきであると考えます。
理由のもう1点は、そもそも3rd Party Cookie制限の議論に至った背景です。行き過ぎたユーザーデータの収集・活用は、生活者の嫌悪感やユーザー体験を損なう結果を生んでしまうこともありました。生活者のプライバシー保護を尊重し、適切な形で生活者データを整備・利用する仕組みとを整えていくことは、Chromeの3rd Party Cookieの問題に関わらず継続していくべきことであると考えます。企業各社が管理する1st Party データ活用へのシフトなど、検討・検証すべきテーマは多岐に渡ります。
『Hakuhodo DY ONE』としての取り組み
AppleやGoogleの識別技術規制の動向が本格化するにつれ、Hakuhodo DY ONEは前身のDAC・アイレップの頃より「Cookieなき世界」への備えを強化し、広告主企業様やパートナー/パブリッシャー企業様に対して様々なオプションをご提案して参りました。今後も、この方針・活動に変更はありません。
データマネジメントプラットフォーム「AudienceOne🄬」では、既に最盛期の1/3程度の規模に縮小した3rd Party Cookie由来のIDに代わり、新たに『ID5』や『LiveRamp』等の新しいIDソリューションパートナーと連携したサステナブルなID(AudienceOne🄬 ID)&データ基盤を再構築しました。既に3rd Party Cookieが無効化されたiOS利用者も含めて網羅的に繋がることができる仕組みを整えており、コネクテッドTVをはじめ多様化する生活者接点への対応強化も進めています。許諾済みデータを連携してくださるパートナー企業様と共に、新しいデータソリューションやオーディエンスセグメントのご提案も進めている状況です。
広告主企業様へはコンバージョンAPIやデータクリーンルーム分析などの広告業務領域での支援に加え、CDP構築やデータプライバシー関連の対策など包括的に1st Party データ管理・運用のための支援をさせて頂いています。一方パブリッシャー企業様には、Cookieに依存せずともターゲティング広告やメジャメントサービスを継続し、広告事業を持続・成長させて頂くための各種ソリューションのご提案をさせて頂いています。
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最後に
今後、当面はデジタル広告・マーケティング業界全体の混乱が続くかもしれません。いずれにしてもまずは、今回の公表に続く、Googleの具体的な計画や機能の詳細に関する公式情報を待つことになるでしょう。その間にも、私たちには検討し、準備できることは、いくつもありそうです。
また今回のChromeのCookie廃止をめぐる騒動は、デジタル広告・マーケティングに携わる者に、本質的に検討すべき問題が何かを改めて考えさせるきっかけになりそうです。技術的制約を正しく理解することは、いままで以上に重要性を増すでしょう。そのうえで、
- 特定の技術(たとえば3rd Party Cookie)だけに依存した施策実行になっていないか
- データで見えているユーザーは一部の偏った範囲(たとえばiOSを除くChrome)になっていないか
- データを使うことについてユーザーに納得してもらえるよう努力(たとえばプライバシーポリシーの説明や本人からの同意取得)をできているか
といった問いに答え続けることで、技術的動向の変容に惑わされることなく、包括的かつ透明性の高いデータ活用の実現が可能になり、そのことが生活者の信頼を得ながら効果的なマーケティング・コミュニケーションを生み出す土台になるのではないでしょうか。