サードパーティCookieに依存しない世界を切り開く未来に向けて、今やるべきことは何か? ─Advertising Week Asia 2024より

 2024.12.18  株式会社Hakuhodo DY ONE

2024年9月17日(火)~20日(金)、東京アメリカンクラブにて「アドバタイジングウィーク・アジア2024」が開催され、サードパーティーCookieに関するプログラムに、Hakuhodo DY ONEの社員が登壇しました。
本ブログでは、当社社員が登壇したプログラム『サードパーティCookieに依存しない世界を切り開く未来に向けて、今やるべきことは何か?』の内容についてご紹介します。

そもそもCookieとはなにか、クッキー規制による影響と対策に向けた3つのステップ、対策の1つであるファーストパーティーデータ・共通IDの活用などについてお話ししています。

※本記事は、博報堂DYグループの“生活者データ・ドリブン”マーケティング通信の記事を転載する形で掲載しています。

<登壇者>
モデレーター
服部 和磨
The Trade Desk Japan株式会社
Client Service, Lead Associate Account Director

スピーカー
杉原 剛
アタラ株式会社
代表取締役 CEO

大野 皓平
株式会社ベネッセホールディングスDigital Innovation Partners デジタルマーケティング部 課長

鈴木 智之
株式会社Hakuhodo DY ONE
プランニング&テクノロジーデザイン本部 テクノロジー推進局 局長

Cookieレスの時代はすぐそこまで来ている

服部:
そもそもCookieとは何かというと、ウェブサイトを訪問した利用者のブラウザに情報を一時的に保存する仕組みで、ファーストパーティCookieとサードパーティCookieがあります。ファーストパーティCookieは、同じドメインで発行活用され、ログイン保持やアクセス解析に使われる一方、サードパーティCookieは別ドメインで発行活用され、リターゲティングやコンバージョン計測、フリークエンシー調整など主に広告に関わる部分で使われています。

※参考:
1stパーティクッキー(1st Party Cookie)とは
3rdパーティクッキー(3rd Party Cookie)とは

一方でGDPRや改正個人情報保護法などもあり、プライバシーへの懸念が増した結果、ブラウザ上でのCookieがすでに一部使えなくなっているというのが現状です。たとえばSafariではファーストパーティCookieだとITPによる1日制限が既にありますし、サードパーティCookieはSafariでもFirefoxでも使えない状況。Google Chromeではこの議論が数年続いています。これによって、広告ターゲティングや効果測定はダイレクトに影響を受けてしまいます。

なお2024年7月、Google ChromeはサードパーティCookie廃止計画の中止を正式に発表しました。合わせてユーザーが選択できる新しいアプローチを提案するということ、またプライバシーサンドボックスAPIは継続利用可能ですが、開発を進めていくことが示されました。

この発表はちょっとわかりづらいところもあったので、どんな未来が来るのかについて杉原さんから解説いただけますか。


杉原:
7月22日のセンセーショナルなこの発表は日本でもニュースになったので、概略を掴んでいる方は多いと思います。

GoogleがChromeでのサードパーティCookieを完全に削除するという方針が撤回され、基本、サードパーティCookieは残すということになりました。それと同時に、リリースでは非常にあいまいな表現で、「新しいアプローチを導入する」としています。憶測はいろいろありますが、どんなものが実装されるのかはわかっていません。

たとえばアプリをインストールした後にあるような、「トラッキングしてもいいか」「許可する/許可しない」というのがChromeでも出てくるのではないかという説と、Safariと同じように、初期設定ではオフだけど、ユーザーの判断でオンにできるシステムのどちらかではないかと言われています。

ただ、Chrome以外の世界では、既にCookieレスは相当進んでいます。デスクトップとモバイルで分けて考える必要がありますが、デスクトップで言うと、日本でシェア10%ぐらいのFirefox、SafariはITPの関係ですでに影響を受けており、これからChromeとEdgeが影響を受ける。もしATT的なものと同じような仕組みになるとすると、ATTのオプトイン率は世界で30%ぐらい、日本だと15~20%ぐらいですから、やはりサードパーティCookieが使えなくなる状況は来るだろうと考えます。

モバイルの場合はOSのシェアで考えなければなりません。iOSで動作しているChromeも、Safari WebKitというAppleのソフトウェアを入れなくてはならず、それがITP対応になっている。なのでiPhoneやiPadは基本的にITPの影響を受けます。日本で7割のシェアを持つiPhoneは当然影響があり、つまりはサードパーティ Cookieは7割のデバイスで使えなくなっていると認識いただければと思います。

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Googleの新しいアプローチが導入されれば全ブラウザの9割近くがCookieレスになるという、アメリカのリサーチ会社の調査結果もあるので、ほとんど使えなくなるという未来は意外と近い。それは今年の末かも、来年初頭かもしれません。


服部:
事業に向き合う広告主様や広告会社様は、引き続き対応が求められる状況だということで、改めて認識を共有できたかと思います。

関連ページ

 

経営的にも影響力が大きいCookieレス問題

服部:
Cookieレスに対しては、おそらく現在検討中だったり対応中のところが多いのかなと思います。そんな中マーケターはどうアクションを取っていけばいいのか
登壇者4人で議論した結果、『把握する・整理する・実行する』という3ステップが有効だと考えています。

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最初の「把握する」は、Cookieレスの自社への影響範囲をしっかり理解するということ。合わせて、複数あるCookieレス代替対策もある程度理解しておく必要があります。
2番目の「整理する」は、自社データの整理や、自社プライバシー調整があります。
3番目の「実行する」は、ファーストパーティデータの活用や代替ソリューションをどんどん活用していこうということです。これらのスリーステップを、それぞれブレイクダウンして議論したいと思います。

まず「把握する」について。マーケティングや経営戦略、Web広告の投資状況などを踏まえたターゲティングや効果測定ができなくなってしまうので、それによる利益低下の試算も必要ではないかと考えています。

杉原:
これは会社としても規模が大きい話です。まず広告主様の投資も関わるので、マーケ部門だけではコストを考えられない。また、ファーストパーティデータを使うと言っても、非常に貴重なお客様データを使うリスクが発生する。そもそも企業データは企業資産ですから、それを使う、投資するという判断を経営の方にしてもらわなければなりません。

服部:
広告会社様は、広告主様にどう話をされますか。

鈴木:
今年の1月にChromeが1%のクッキー無効化を開始するというスケジュールだったので、その時点で、博報堂DYグループでは、その影響がどの程度かを出稿額から試算するという試みを行いました。が、1%は微々たるものなのでよくわからないという結論になりまして。それを持ってクライアントにも訴えかけようとしましたがうまくいきませんでしたね。

服部:
広告主のリアルなところを、大野さんからいただけますか。

大野:
弊社でも影響を図るための試算を行いました。具体例として通信教育領域事業のリターゲティング数値をご紹介します。2019年度から2023年度までの推移を見ると、リターゲティングへの投資額は減らしている状況ですが、それでも年々顧客獲得単価の悪化が止まらない状況です。2019年度のリターゲティングと同じコンバージョン数を2023年度の環境下で獲得しようとすると、追加投資が10数億円ほど必要という数字が出ました。

日本のiOSのシェアが7割を占める中でiOS比率の高いBtoCの事業を行っているため、影響が非常に大きいと捉えています。

ファーストパーティデータをベースとした共通ID(確定ID)の活用

服部:
次の「整理する」では、自社データの整理とプライバシー調整の2つを挙げました。Eメールや名前、電話番号、住所などの会員情報、またWebやアプリの行動データ、購買履歴といったさまざまな自社データがありますが、広告主としては、整理するというステップは当たり前にありましたか。

大野:
そうですね。弊社の場合、社内のデータ部門が主体となり、日々データの棚卸を行っています。また弊社はダイレクトメールやオフライン施策が比較的強い会社です。自社がユニークで使えるデータも含めて、その先のお客様がどんな状態なのか想像し、先々の活用までをイメージしながらデータを整理する中で新たなフラグを立てる、活用できるようにするといった取り組みを行っています。

一方で、基本的にDMをお送りすることを前提にお客様の個人情報を取得させていただいている側面もある。その結果、ウェブ上の施策にオフラインのデータが繋がりづらいといった点が課題としてあります。

服部:
なるほど。データを持っていても、プライバシーのアップデートや調整も必要そうですね。たとえば自社法務との調整、法務とマーケの連携、プライバシーポリシー改定、情報システム連携など、関係してくる部門が多岐にわたりそうです。この辺りは鈴木さんがクライアントに訴えかけているところだと思いますが、実際はいかがですか。

鈴木:
我々がCookieレスについて最初に提案するのは、マーケ部門です。ただそこだけだと、ファーストパーティデータがどこまで利用可能かの判断がつかないので、法務も出てくる。法務の見解も考慮しながら試作するケースが多々あります。法務でOKとなれば、情報システム部や情報セキュリティ部も出てきて、細かい指示が入ってくる。非常に足が長い作業なることが多いです。半年で収まればいい方です。

blog_SDM転載_AWA1216_鈴木さん

杉原:
グローバルの場合、プライバシー保護を本当に第一義に考えているというのが僕の印象です。アメリカでは50州全てで個人情報保護法が可決し始めていますが、ユーザーが削除を希望したときに即時削除することが義務化され、それを効率的にシステム的にやらなければ法律的に刺される、ということが起きています。日本でもかなり厳格化する可能性はあると考えます。

関連ページ


服部:
では、「実行する」についてはいかがでしょうか。

鈴木:
ファーストパーティデータを収集しているか、または使える状態かによって、イエスかノーかで分かれると思います。イエスの場合、さらにターゲティング活用方法と、効果計測の活用方法で、また対応が分かれると思います。ノーについては本日は割愛しますが、イエスの場合、ターゲティング手法としては今のところ、確定ID、推定IDの共通ID系のソリューションや、データクリーンルームは、すぐに活用できるかと思います。一方、「個人情報が必要」な手法としては、カスタマーマッチやCDP基盤をそのまま活用するやり方もあります。

効果測定の部分でいくと、同じく共通ID(確定ID)、データクリーンルーム、あとはCAPIやサーバーサイド系の計測がコンバージョンの補完として使えるというご提案をよく差し上げます。

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※参考:
共通IDソリューションとは
確定ID(ハードシグナル)とは
データクリーンルーム(DCR)とは

服部:
ありがとうございます。ではプラットフォーマー側としてどう考えているかについても、お話させていただきます。

ファーストパーティデータが使える状態のとき、私たちは確定IDを含むアイデンティティのエコシステムをしっかり作るべきだと考えます
直近で弊社の管理画面をアップデートしたのですが、そこでもUID2を含めたファーストパーティデータを最大限活用できる変更が含まれています。たとえばUID2の話でいうと、広告主にもパブリッシャーもメリットがある状態、かつ、確定IDであるからこそ、モバイルやPC、コネクテッドTV等のデバイスを横断して繋げるということが行えます。
そのため、セキュアでプライバシーセーフという点や、広告主サイドではオムニチャネルでしっかり広告配信できる点、パブリッシャー側の収益改善ができる点も目的としています。また、複合的なクロスデバイス環境も持っており、LiveRamp社が持つIDとの互換性もあるため別の確定ID間でも活用できるようにもなっています。

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その先の活用では、パフォーマンス活用から新規リーチの獲得まで可能だと考えています。それには3段階あり、まずファーストパーティデータとなるEメールなどを起点にしUID2のIDを生成したら、それをリターゲティング広告やLTV(Life Time Value)を伸ばすリテンション配信、最適化、効果測定、分析などにも活用が可能です。

一方で、Identity Alliance(アイデンティティ・アライアンス)と我々が呼んでいる、クロスデバイスの環境も構築しています。1人のユーザーが複数デバイスを持っていても、UID2を含むIDでデバイスを繋ぎ、デバイス横断でオムニチャネルやフリークエンシー調整が可能です。
さらに、配信のスケール化や新規ユーザーへリーチさせるため、確定IDを起点に類似度の高いオーディエンスにLook A Like配信をし行うことが可能です。このエコシステムがしっかり回せると、Cookieレスの世界でも、安心な環境下で顧客データを起点にマーケティング施策を行うことが可能だと考えています。

UID2のパートナーは業界全体で非常に拡がっており、パブリッシャーやSSPにおける収益改善のために活用が増えているところです。

また、効果測定パートナー側との連携も重要です。
クロスデバイスやLook A Like配信も、サードパーティCookieに頼り過ぎるとそのうち使えなくなります。その状況を防ぐため、データパートナーと連携し、データ側でもUID2を起点にターゲティングや効果測定が引き続きできる環境構築を進めています。The Trade Deskでは、パブリッシャーからデータのところまでをしっかり構築することに取り組んでいます。

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杉原:
パブリッシャーが起点となり、何らかのマッチングをするような、確定IDのような取り組みに着手しなければ、広告主はやはり動かないと思います。
加えて、広告主様の立場では、プログラマティックがあまりにも便利になりすぎて、自分たちの広告が出ている面のことをおそらく知らないでいた人が多いと思います。でもIDとIDをマッチングさせなければいけないわけだから、自分たちが繋がりたい、広告を配信したい面のことをもっと理解することが必要です。そういったパブリッシャーと対話をして、もし共通ID等に対応していなければ、「お互い共通IDに対応しませんか?」と、もっと声を掛けていかなくてはならないと思います。

関連ページ

各代替施策に見られる課題点

服部:
最後に、大野さんから具体事例をご紹介ください。

大野:
いくつか施策を行う中で、もっとも目に見えて成果が出たのが、ファーストパーティデータをターゲティングに使った例です。オフラインやオムニチャネル的な考え方でデータを活用することにより、従来のリターゲティングと比較しても大幅にパフォーマンスを改善できたという実績が出ています。

そんな中、カスタマーマッチは、ログインベースでIDを持つプラットフォーマーとしか取り組み拡大しづらい点が課題だと思いますが、The Trade DeskさんのUID2のようなプラットフォームを使えば、配信先を拡張でき、単一プラットフォーマーとの取組みを補完できるのでは、と考えています。

ちなみにサーバーサイド/CAPI拡張コンバージョンは欠損していると思われる自社計測データを管理画面上にフィードバックするため、管理画面上のCVやCPAは当たり前に改善するのですが、なかなか自社計測した実績との相関が見えず評価しづらいんです。鈴木さん、広告会社さんからいかがでしょうか。

鈴木:
基本実際のCV成果も伸びるものと考えますが、検討期間の長短によってパフォーマンスは多少変わります。仮説ですが、ベネッセさんの場合はリードタイムが多少長いのではないかと。検討期間が短い場合、成果は出る。つまりクッキーの保存期間に影響されるということです。

大野:
なるほど、ありがとうございます。検討期間ですね・・・。
ちなみにカスタマーマッチ、データクリーンルーム、MMMなどもやや再現性が乏しい、と評価していますが、たとえばカスタマーマッチは単体だと限られたプラットフォーマーさんにしか使えないとか、データクリーンルームに関しては特定の媒体、プラットフォーマーさんと個別で構築する、もしくは自社で持つかのいずれかに限られるのでなかなかハードルが高い。MMMやCausalも、何をどうやったらそういう結果になるのかといった部分は、別途で検証が必要だと感じておりその辺りで評価しております。

服部:
ベネッセさんの今後の戦略についても教えてください。

大野:
弊社は元々DMを通したマーケティングから始まり、認知のところからオフラインメディアが中心、検討フェーズにおいても切り口を変えたDMをお送りして、最終的にWebでリターゲティングを中心にクロージングするというモデルをとってきました。
ただリターゲティングが厳しくなりつつある状況の中、このモデルだと投資対効果が悪化してしまいますから、ファーストパーティデータをしっかり活用し、デジタルのチャンネルの役割を変えていけたらと思っています

具体的には、ウェブ広告などを先に認知領域に当て、その反応に合わせて個別でDMをお送りするなど、オンラインとオフラインのミックスで戦略を作っていけたらと考えています。

服部:
ありがとうございます。
皆さんぜひ、明日からアクションし、業界全体でCookieレスへの対応を進めていきましょう!

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※本記事は博報堂DYグループの“生活者データ・ドリブン”マーケティング通信の記事を転載する形で掲載しています。

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この記事の執筆者

株式会社Hakuhodo DY ONE

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