※D.Table株式会社は2023年8月31日DACに吸収合併いたしました。
本連載では、多数の人気アパレルブランドを展開する株式会社TSIホールディングス(以下、TSI)のGoogleソリューションを活用した取り組みに関して、3回に分けて一連のプロジェクトをご紹介します。アパレル業界に留まらず、様々な業種の皆様にとって有益なエッセンスがたくさん詰まった事例となっています。
前回の記事「データ活用施策のインハウス化と機械学習の応用」では、機械学習の応用とインハウス化の定着、また、Google CloudとGoogle Marketing Platform(以下、GMP)を連動させた配信に関するインタビュー内容をお届けしました。
第3弾では、TSIのデータ活用戦略を統括する竹山健司さんと、竹山さんが率いるチームにてサンエービーディーオンラインストア(以下、SANEI bd)を担当する大橋直樹さん、取り組みを一緒に進めている弊社DAC及びグループ会社D.Table株式会社(以下、D.Table)の担当である渡辺卓、藤江基一、柴田孝次による、Google新ソリューションRecommendations AIを用いたサイト内レコメンド活用のインタビュー内容をお届けします。
関連ページ
- データ活用施策のインハウス化と機械学習の応用|Googleプロダクトを活用したTSI×D.Table取り組み紹介 連載第2弾
- 『広告配信での機械学習』導入事例|Googleプロダクトを活用したTSI×D.Table取り組み紹介 連載第1弾
※本文中の敬称略
3rd Itetraionの取り組み概要
- 3rdでの取り組みに至った背景や経緯を教えてください。
TSI竹山:D.Tableさんと会話しながら、3rdでの取り組みにおいては、Google Cloud上に蓄積されたデータを活用して、自社ECサイト内での顧客体験を向上させたいと考えました。
2ndでの取り組みで機械学習やGoogle CloudとGMPを連携した広告配信により、サイト外から自社サイト内にユーザーの来訪を促す施策を行ったので。
それを踏まえ、次はサイト内でより顧客体験を向上させ、サイト内外のアプローチを一気通貫でつなぎ、カスタマージャーニー全体での顧客体験向上を推進することが重要であると考えました。
- 実際に3rdではどのような施策検討をおこなったのでしょうか
D.Ttable渡辺:3rdではTSI様と会話していく中での課題を踏まえGoogle Cloud上のソリューション「Recommendations AI(以下、RecAI)」を提案させていただき、施策の実施に至りました。
Google Cloud上の新ソリューションであるRecAIは、ユーザーのWeb行動データや購買状態に応じて最適化された、ユーザーに対して1on1でのレコメンドが可能なソリューションです。まだ国外含めて導入事例が少なく詳細な実装方法が確立できていなかったため、D.Tableだけでなく、Google Cloud担当者と密に連携しながら、アジャイル形式で導入を進めさせていただく形になりました。
- RecAIを用いたレコメンデーションを採用されたポイントは何だったのでしょうか?
TSI大橋:データが蓄積されているBigQuery(以下BQ)上の自社データを用いて、機械学習モデルを使用したレコメンドが可能な点です。
表示するレコメンドにおいて何を重視するかの戦略選択によって、エンゲージメント、収益、コンバージョン数などに細かくレコメンドを最適化できる点にも魅力を感じました。
<以下実際のレコメンデーション表示画面>
- RecAIはどういった手順で導入したのですか
D.Table渡辺:RecAI導入の手順は以下の6Stepになります。Googleプロダクトを用いることで各ステップにて必要なデータを簡単に収集し、相互にプロダクトを連携することで実装が容易に可能になります。
また具体的に導入を進める際は、D.Tableからは私が全体ディレクションを担当し、Google Cloudに関連する実装はクラウドエースエンジニアでもある柴田、GMPに関連する実装は藤江が担い、D.TableがDACとクラウドエースの体制連携ができる強みを活かしました。今回、RecAIの導入を行ったSANEI bd担当の大橋さんには、ECサイトへの実装のディレクションを担っていただいています。
<Recommendations AI の導入ステップ>
- RecAI導入にあたり大変だった点はありますか
D.Table柴田:最初に苦労した点としては、RecAIを構築するために必要となるGoogleCloudの権限を把握することです。構築の序盤は権限不足エラーが発生し、その都度TSI様に権限を付与していただくことが多かったですね。
RecAIがGoogleの新ソリューションだったため、実装手順書などが詳細には用意されておらず手探りで実装を行いました。各Stepにてスムーズに実装ができるということはほとんどなく、原因調査と修正を何度も試行する必要がありました。
DAC藤江:私のほうではStep3のリアルタイムユーザーの情報の取得設定など、GTMの設定を行ったのですが、Webサイト上からリアルタイムに取得できるデータと学習に取り込んだ商品カタログデータを一致させる必要があるので、商品カタログデータの中で、サイト上から取得可能な情報の整理と、どの情報を機械学習に組み込むかといった設定が大変でした。
- ECサイト側の実装の観点ではいかがでしょうか?
TSI大橋:アジャイル形式で進めていたものの、Googleから展開されている仕様書通りに実装してもサービスが機能しなかったものがあったので、そこは苦労しましたね。
具体的には初回来訪ユーザーやリピーターユーザーで1to1レコメンデーションが機能せず、同一のレコメンデーションが表示されてしまうことがありました。
要因を突き止めるためには、RecAIのトレーニングの問題なのか、実装側の問題なのかの切り分けて考える必要があり、どちらの可能性も総当たりで確認する必要があったのが大変でした。
- 施策実施と効果検証フェーズにてどのような効果がありましたか?
TSI大橋:今回作成した機械学習モデルによるレコメンデーション経由の売上に関しては、売上目標比150%となり、良い結果となりました。数パターンあるうちの1つの機械学習モデルを用いて検証を行ったため、残りの機械学習モデルの検証は今後進めていければと考えています。
実施を終えて
- 今回、実装がとても難航したのがお話を伺って感じ取れたのですが、D.Table担当の提案や実行レベルはいかがでしたでしょうか。
TSI竹山:日本で事例があまり無い中、GoogleCloudともご連携いただきながら、こまめに進捗のご報告やネクストアクションもご提示いただき、大変感謝しております。
あえて申し上げるならば一点、新ソリューション実装をさぐりさぐり行っていたため、スピード感が遅くなっていた印象がありました。その点はよりスピード感をあげていただきたかったのが本音ですかね。
TSI大橋:実行レベルは問題なく対応していただきました。竹山からの指摘と同じですが、実装事例が少ないこともありGoogleCloudから回答を得るまでのラリーにどうしても時間を要してしまった点、もう少しスピード感はあげていただけるとよりありがたかったです。
D.Table渡辺:率直なご意見いただきありがとうございます。GoogleCloudと連携して進めていましたが、実装がうまく行かない場合の要因解明に時間が大変かかり、全体のスピード感が遅くなってしまったことは、D.Tableとしても一番の反省点です。
竹山さんや大橋さん・Google担当の皆様のご理解とご協力がなければ導入ができなかったと思いますし、お力添えいただいた関係者の皆様に本当に感謝でいっぱいです。
- 3rdはどういった知見を自社に残すことができましたか?解決できたこと/新たに浮かび上がった課題や今後やっていきたいことがあれば教えてください
TSI大橋:今回の3rdでの取り組みによって、1st、2ndにて学んできた機械学習の知見を、広告活用以外のサービスにて活用することができました。
今後も、これまで得た知見を生かせるよう様々なサービスへの活用を検討していきたいです。
TSI竹山:今度実施していきたいことに関しては、大きく2点あります。
1つはRecAIのブランドを横断しての展開です。TSIが統合して多くのブランドを扱う形になったので今回の知見を基に横に施策を展開していきたいと考えています。
2つ目はRecAIのタッチポイントの拡大です。今回のSANEI bdへのRecAI実装は、自社ECサイト上で行っています。さらにメルマガやアプリプッシュ等にRecAIを実装し、タッチポイントを拡大していきたいと考えています。
- Googleソリューションを活用した1stから3rdの取り組み全体を通して、感想を教えてください。
TSI大橋:実際担当して進めるまではデータ活用に半信半疑な部分もありました。
取り組みを通して、データを活用したモデルケースを用いて配信テストした際に、獲得収益に明確な改善が見られたので、回を追う毎にやりがいが増していきました。
今後もデータ活用を様々なジャンルで進めていきたいと思います。
TSI竹山:1st、2ndでの取組では、データ分析のインハウス化を目指して進める中で、自社データを様々な施策にメンバー自身で活用出来るようになったと思います。
その結果、効率向上、活用促進のスピードが大幅に改善しました。
3rdでは、Googleの新しいソリューションであるRecAIにトライすることで1to1コミュニケーションを実現し、これまでとは異なるデータ活用方法を学べたと思っています。
- 現在、別の分析を行っている最中だと伺いました。これからのTSIのデータ活用の取組の構想を教えてください。
TSI竹山:我々のチームに、今期からKARTE(カルテ)やMA(マーケティング・オートメーション)ツールを扱うメンバーが加わりました。
これまでの1stから3rdで身に着けたデータ分析や活用を、新たなメンバーに対しても促進していくために、機械学習やSQLを用いたデータ分析は継続して社内で取り組んで行きたいと考え、今もD.Tableさんに支援をいただいております。
また、これまで扱ってきた機械学習モデルをさらに高度にしていくことも必要であると考えています。今まではSQLを中心とした分析を扱っていましたが、Pythonを用いた機械学習分析にもチャレンジしている最中です。
まとめ
3回に渡ってお届けしてきましたTSIとの取り組み、いかがでしたか。スタート時点では「1st」「2nd」「3rd」と3つのItetraionに分けて施策を進めてきましたので、本記事でいったん一区切りとなりましたが、記事の通り、引き続きTSIとの取り組みは続いている状況です。
次回はTSIでのPythonを用いたデータ分析および施策活用に関してお届け出来ればと思います。
また本取り組みをご覧になり、ご興味をお持ちいただいた方がいらっしゃいましたら、お気軽にお問合せください。