デジタル広告ってIT用語やマーケティング用語といった専門用語が多くて難しいですよね。昨今では「ポストクッキー時代」と言われていますが、「これまでと何が違うのかわからない」「そもそもクッキーって何?」と思われている方もいるのではないでしょうか。
本連載(全5回)では、デジタル広告に関わる方はもちろん、全ての方にわかりやすく「ポストクッキー時代」の今後の対策について解説していきます。第2回となる今回は、「ポストクッキー対策にはどんな種類がある?」と題して、具体的な対策方法にどのようなものがあるのかご紹介します。
Introduction
新卒のワタナベさん(主人公)はクッキーについて勉強した後、既に様々規制がはじまっていることを学びました。クッキーが使えなくなるとどんな問題があるのか、先輩のタケダさんに質問しようとしたところ、部長のヤマダさんも同じくタケダさんに何か質問しているようです。
ワタナベさん)
この前3rd パーティクッキーがもう使えなくなってしまうということは分かったけど、じゃあ今後はどうするんだろう?また先輩に聞かないとな。
ヤマダさん)
タケダさん、ちょっといいかな。部署で担当している広告売上がなんだか最近下がってきている気がするんだけど、原因は何か分かる?
タケダさん)
お疲れ様です。売上減少はおそらくクッキー制限の影響もあると思います。ちょうどいいのでワタナベさんも一緒に聞いていてください!
国内でのモバイルブラウザ別の割合
タケダさん)
突然ですが、お二人はスマホとブラウザはそれぞれ何を使っていますか?
ヤマダさん)
iPhoneだよ。そのまま規定のやつだからSafariかな。
ワタナベさん)
iPhoneですが、使いやすいのでChromeを使ってます。
タケダさん)
ありがとうございます。そうですよね、日本国内ではiPhoneのユーザーが全体の6割超といわれています。DACの調査では、モバイルのブラウザシェアもSafariが65%を占めているそうです。
ワタナベさん)
前回、既にiPhoneユーザーには3rd パーティクッキーによる広告ターゲティングはできていないと教えていただきましたが、つまり日本国内の6割以上が今もうターゲティングできていないということですか?
タケダさん)
iPhone・iOSユーザーであれば、ワタナベさんのようにSafariではなく別のブラウザを使っている人もクッキー規制の対象なので、実際にはもっとターゲティングできていないことになります。
ただ、Safariからの収益だけでも、収益の試算では2019年の広告売上を100%とした場合、クッキー制限によって徐々に売上は減っており、2022年は23%しか取れていない計算になっています。
ヤマダさん)
不景気や感染症による情勢で広告売上が下がっているのは仕方ない面もあるのかなと思っていたら、そんなことになっていたなんて全然知らなかった。
タケダさん)
もちろん時勢による影響も大きいとは思いますが、クッキー規制による機会損失は見ないふりをしている場合ではなくなってきました。Safariの次にシェア率が高いのはGoogleが提供しているブラウザのChromeで34%です。
ワタナベさん)
2024年のAndroidユーザーへの制限がはじまると、つまりもっと、、あわせて9割以上のユーザーのターゲティングができなくなるということですか?
タケダさん)
その通りです。
GoogleのAndroid・Chrome規制開始後の収益
タケダさん)
しかも直接的な売上の減少だけではなくて、Webサイトへのクッキーターゲティングができなくなったことで広告主はSNSなどCookieが関係しないプラットフォームへ出稿する傾向になっています。
今のプログラマティック広告は、Apple ITPリリースのあと影響をかなり受けていて、本来あるべきだった収益に比べて相当な機会損失が発生しているという試算も出ているみたいです。
ヤマダさん)
広告会社の人からSNSが伸びているとは聞いていたけれど、Webの予算が流れていたなんて。すぐに対策しなくちゃいけないね。
タケダさん)
はい。2024年度以降、GoogleのAndroidユーザーへのクッキー規制がはじまってしまうと、今のスマホ収益の大半を占めているChromeからの収益もかなり減少する可能性があるので、今のうちに対策を考えないといけません。
ヤマダさん)
ほとんど売上がなくなってしまうじゃないか!具体的に対策を考えることにしよう。詳しいことを調べてまとめておいてくれるかな?
タケダさん)
わかりました。また後日お時間いただきます!
ポストクッキー対策の方向性の種類とは?
ワタナベさん)
「ポストクッキー」という単語はつまり、クッキーが使えなくなる未来のことですよね。でも未来というほど先のことではなくて、もうその時代は始まっているということですね。
タケダさん)
そうだね。本格的に「ポストクッキー時代」が始まるから、まずは今後の対策の方向性を検討していかないといけないね。今までユーザーデータを活用して実施していたことをこれからもIDを活用するかどうかで大きく方向性は3つあると言われているよ。
☑ <方向性1> ID単位捕捉の継続
☑ <方向性2> 非ID捕捉への脱却
☑ <方向性3> 群単位での捕捉
ワタナベさん)
急に難しくなった気がしてきました。
タケダさん)
大丈夫、ひとつずつ説明していくね。
方向性の1つ目は、クッキーやモバイル広告IDなど今使われている方法と同じように、引き続きユーザーを個々で識別してとらえる方法だね。ユーザー1人ひとりに対してIDを付与して管理するから、共通IDソリューションと言われていたりするよ。
方向性の2つ目は、1つ目とは違ってユーザー単位でターゲティングするのではなく、記事に書いてある内容や文脈=コンテキストで判断して広告を配信したり、モーメント=瞬間をとらえて配信や評価する方法だね。
方向性の3つ目は、個人をとらえないけれど、同じ属性の人たちをまとめてターゲティングや計測をする方法だね。
ワタナベさん)
つまり、例えば新しいアイスクリームの広告を出すとしたら、<方向性1>だと新商品のターゲットの20代の女性という個をとらえて配信する方法で、<方向性2>だと「最高気温更新など」等のトピックスを扱うニュース記事にターゲティングしたり、「暑い」「アイス」などのキーワードを検索したり投稿したりしている場面にターゲティングして、アイスが食べたいと思っている瞬間に配信する方法、<方向性3>だとアイスクリームが好きな属性の人たちにまとめて配信する、ということですか?
タケダさん)
極端に考えるとそうなるね。でも、<方向性1>のID単位の手法だとしても、性別や年齢といった情報だけではなくて、アイスクリームが好きというような興味関心の情報も紐づいているから、<方向性1>と<方向性3>は個人でとらえるか群でとらえるかの違いになるかな。
ワタナベさん)
それでは、実質的には<方向性1>と<方向性3>が近く人ベースのターゲティングで、<方向性2>は文脈ベースということですね。
ID単位捕捉手法の2つのアプローチ形式
タケダさん)
最終的には、方向性の1~3についてそれぞれ検討を進める必要があるのだけれど、今、期待が高まっているのは<方向性1>のID単位捕捉の方法を継続することかな。
<方向性1>のIDベースの中にも大きく2つアプローチ形式があるよ。
☑ 方向性1-②:確定ID/ハードシグナル方式
ワタナベさん)
ソフトとハード?シグナルってなんですか?
タケダさん)
シグナルは信号とか合図っていう意味の英単語だよ。ここでは、IDを作成するために何をキー(鍵)=合図にしているかによって種類を分けてる。
方向性1-①:推定ID/ソフトシグナル方式
タケダさん)
まず1つ目の推定ID/ソフトシグナル方式について説明するね。
ユーザー本人が登録した情報ではなくて、利用しているIPアドレス(PCやスマホごとに付与されているインターネットの住所のようなもの)やアクセス情報などの大量のデータを分析して推測する技術を使い、IDを判別する方法。
Aというサイトを訪れた人の情報と、Bという別のサイトを訪れた人の情報がIPアドレス・OS情報やそのほかたくさんのものが一致すると、おそらく同一人物ではないか、と判断されるイメージだね。
ワタナベさん)
様々なデータを分析する技術で推測するということですね!
タケダさん)
そう。IDの数も多く確保できるし、メリットはたくさんあるけれど、クッキーと同様に、将来的には法律や技術的に規制されてしまうかもしれない可能性はあるんだ。
方向性1-②:確定ID/ハードシグナル方式
タケダさん)
2つ目の確定ID/ハードシグナル方式は、メールアドレスや電話番号などのユーザーが登録した確定情報をキーにしてIDを作成して判別する方法。
もちろん、直接そのままの情報を取扱いするわけではなくて、元のキーになる個人情報に戻ることがない様にハッシュ化という暗号化処理でIDを生成するので、セキュリティもきちんと守られている方法だよ。
ワタナベさん)
ユーザーが登録した情報がもとになっているから推定ではなくて確定しているデータ、ということですね。ユーザーはいつアドレスなどを登録するのですか?
タケダさん)
例えば、うちの会社が運営しているサイトにも会員さんの登録フォームがあるよね。読者に登録してもらう時に「共通IDの発行に使います」という旨に同意をもらうことで準備ができるから、その会員情報のメールアドレスなどをID発行に利用するよ。
ワタナベさん)
IDを使うことを事前に同意した人だけ、IDが発行されるんですね。
タケダさん)
オプトインといって、ユーザーに許可をもらってから広告宣伝に使うためのIDを取得できる方法だから規制される懸念は現状あまりないかな。
でも、ログイン機能がないサイトもあるし、許諾のとれた確定データの量がまだ少ないので、国内ではボリューム確保が現時点の課題だけど、今後2024年以降のポストクッキー環境本格化に向けて、ID数が増えていくことが予想されるね。
今回のまとめ
タケダさん)
ポストクッキー対策の方法については大体わかったかな?
ワタナベさん)
どんな方向性で対策するかによって、いくつも方法があることがわかりました。今回学んだ内容を日報にまとめたので確認お願いします!
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